おれ達は冬合宿と称し、冬休みの終わりに2泊3日のスキー旅行に来ていた。
メンバーは夏合宿と同じ、もちろんスゥもいる。
どうしてスキー旅行に来ているかというと、部室でのんびり絵を描いているときにこんなことがあったからだ。
「先輩、冬合宿やりましょう!」
初めにそう言ったのは蘭だった。
冬休みのちょうど2週間前、永源寺先輩が推薦で進路が決まったとおれ達に伝えに来たときだった。
「なかなか面白そうだな。 平野、考えてみたらどうだ?」
「そうですね・・・・・・」
正直「却下!」と永源寺先輩が言うと思っていたのでおれは少しだけ驚いた。
永源寺先輩は夏と違って口数も多くなった気がすると、蘭も陽詩美も思っているだろう。
蘭は手術の後を気にしているのだろうか、部室でも帽子を取ろうとしない。
もう痕は見えないのに。
陽詩美は相変わらずヘラヘラしている。
まるで春華のことを吹っ切ったかのようにも思える。
そんな蘭や陽詩美、それに先輩を見ていると夏合宿なんて無かったかのよう、まるでこの美術部が永遠に続いていくんじゃないかなと思えた。
「ねぇ先輩、なにニヤニヤしているんですか?」
蘭がおれの顔を覗き込んだ。
「あ、なんでもない」
「あ〜、唯人ったらエッチなこと考えてる〜」
陽詩美が茶化すように言った。
「ばか、そんなんじゃないって」
「平野、そんなことで美術部の部長が務まるのか」
先輩までそう思っていたのか・・・・・・。
思わずため息もつきたくなる。
「でも、こうして永源寺先輩やスゥちゃんがいると夏合宿を思い出しますね」
「それもそうだな」
蘭の言葉におれは少し悲しみを感じた。
もう春華はいないのだ。
「唯人・・・・・・春華のこと考えているの?」
陽詩美はおずおずとたずねてきた。
「あ、いや、そういうわけじゃないけどな」
陽詩美の方がおれよりも辛いと思う。
「唯人、私は大丈夫だよ」
「強がるなって」
「本当に大丈夫だよ」
「何を根拠に言えるんだ?」
陽詩美がなぜこんなに大丈夫だと言えるのかはわからなかった。
「だって春華はいつも私と一緒にいるんだもん」
そりゃおれだってそう思いたい。
春華ちゃんを失って一番辛いはずの陽詩美に励まされると思ってもみなかった。
「ありがとな陽詩美」
「だってこうやって春華のことを考えるとね・・・・・・」
陽詩美が手を合わせて祈るように目を閉じた。
「お兄ちゃん」
春華?
たしかに春華の声が聞こえた。
でもどこからだ?
「お兄ちゃん」
また春華の声が聞こえた。
「どこにいるんだ、春華!?」
おれはあたりを見回した。
「ここよ、お兄ちゃん」
バン!
掃除ロッカーを勢いよくあけ、もう二度と会えないと思った春華が出てきた。
「これは夢か・・・・・・」
突然のことにおれは信じられなく呟いた。
「夢なんかじゃないよお兄ちゃん。 これは現実だもの」
「えへへ、なんかあれからね、春華の事を考えると召喚できるようになっちゃったの」
陽詩美は笑いながら言った。
そんなばかな・・・・・・。
「あ、春華ちゃんだ。 春華ちゃんも冬合宿行く?」
蘭は春華がいることに何の不思議も持ってないようだ。
「え、冬合宿あるの? 私も行きたい」
「そうだな。 源の妹だし人数は多いほうが楽しいだろう」
「わーい」
ロッカーから出てきた突っ込みを受けることなく春華は美術部に溶け込んでいた。
「ねぇ唯人、冬合宿どこ行くの? 私スキーやってみたい」
おれが話しに入る間もなく、合宿に行く話しがまとまってきている。
「ちょっと待った。 冬合宿やるんだったら学校の許可とらなきゃダメなんだろ? それに合宿費だって下りるかわからないんだし」
「はい、唯人」
陽詩美がおれに何か書き込まれている紙を差し出した。
そこには冬合宿の許可証だった。
おまけにおれの名前で許可をとってあった。
「・・・・・・いつの間に許可とったんだ?」
「それなら私がとっておいた。 何か不満でもあるのか?」
「いえ、無いです」
もしかしておれ以外みんな確信犯ですか?
そう問いただしたくなった。
そんなわけで今は電車の中。
向かい合うタイプの席に蘭と陽詩美と春華と永源寺先輩が座っている。
トランプでババ抜きをやっていのを、通路を挟んだ隣の席からおれはスゥと眺めていた。
スゥはババ抜きがわからないらしく、首をかしげながら眺めている。
「あれはババ抜きといって、同じ数字を2枚1組で場に捨て最後までジョーカーを持ってた人が負けってゲームなんだ」
「ババ抜き・・・・・・ですか?」
「そう、ババ抜き。 スゥもやってみる?」
「はい」
ババ抜きは陽詩美がちょうど5連敗したところだった。
陽詩美はものすごく悔しそうな顔をしている。
ジョーカーをひかれそうになると顔に出てしまうのに気がついていないみたいだ。
「陽詩美、スゥと変わってくれ」
「うん、いいよ。 でも何で勝てないのかな?」
陽詩美は首をかしげ、トランプを置いて席をたった。
「スゥちゃん相手でも手加減しないぞ〜」
「よろしくお願いします」
スゥを含めた4人はまたババ抜きをはじめた。
今度は陽詩美がいないので長引きそうである。
「ふぅ、なんで負けちゃうのかな?」
おれと向かい合わせに座って陽詩美は考えていた。
「お前は顔に出やすいからな。 ジョーカーを引きそうなときにうれしそうな顔するから負けちゃうんだよ」
「う〜、唯人仇うってきて」
「嫌だ」
「あうぅ・・・・・・」
悲しそうにおれを見つめる陽詩美。
「・・・・・・わかったよ」
陽詩美の視線に耐えられなかった。
「えへへ、だから唯人って好・・・・・・」
陽詩美はそういい終える前に固まっていた。
陽詩美が固まったまま見ている方向を見ると、なぜか永源寺先輩や蘭や春華、そしてスゥまでもババ抜きの手を止めてこっちをにらんでいた。
「おれ何か悪いことしたか?」
「唯人って鈍感だね・・・・・・」
おずおずと陽詩美がつぶやいた。
「先輩もババ抜きやりましょう」
蘭が声をかけてきた。
声のトーンはいつもより低い。
「あ、ああ・・・・・・」
おれは断ることもできなく参加するしかなかった。
当然、おれが負けたことは言うまでもない。
「うわ〜真っ白だ〜」
駅からバスに乗って揺られること一時間ばかり、そこには一面の銀世界が広がっていた。
蘭は窓に顔を張り付かせながら一生懸命に外を眺めている。
「本当に真っ白だな。 まるで誰かさんの頭の中みたいだ」
おれは隣の陽詩美を横目で見た。
「誰かさんって言って何で私を見るのよ!」
陽詩美は頬を膨らませて怒っていた。
「平野、あんまし源をからかうな」
「そうだよお兄ちゃん。 ほんとのこと言っちゃダメだよ」
「春華、私本気で怒るよ」
「やれるもんならやってみなさいよ」
姉妹喧嘩が繰り広げられる中、先輩はどこか楽しそうな顔をしていた。
「永源寺先輩、そんなに嬉しそうにしてどうしたんですか?」
「ウサギいるのかなと思うとわくわくしないか?」
スキー場のリフトから見えるウサギの足跡のことか。
おれも何度かスキーに行ったことあるけど、未だに足跡しか見たことが無い。
「それは楽しみですね」
「だろ? あ〜ウサちゃんいるかな〜♪」
永源寺先輩は自分の世界に入り込んでいるようだ。
きっと頭の中ではウサギと追いかけっこしているのだろう。
スゥも蘭ほどではないが、窓の外に広がる銀世界を眺めている。
「スゥ、寒くないか?」
「はい。 大丈夫です」
スゥはおれの方を見てそう答えると、また外の銀世界に目線を戻してしまった。
「そんなに雪が珍しいのか?」
「はい。 こんなに雪があるなんて、スゥ知らなかったです」
「そっか。 ゆっくり外を眺めてるといいよ」
バスが目的地まで着くとチラホラと雪が降り始めた。
山間の中は駅からバスに乗ったときよりも寒く、思わず寒気もはしる。
「お〜寒い〜。 早く旅館に入ろうよ」
蘭は自分の荷物を取ると、真っ先に旅館に駆け込んでいった。
「私も蘭の意見に賛成だ。 一足早く入らせてもらうぞ」
永源寺先輩も駆け込むとまでは言わないが、早歩きで旅館に入っていった。
「みんな待ってよ、置いていかないで〜」
陽詩美も荷物をもって駆け出そうとした。
が、
ドシン!
雪に足を取られ、陽詩美は顔から雪に突っ込んでいった。
「ちょっと、大丈夫お姉ちゃん?」
「あう・・・・・・冷たい・・・・・・」
雪を払いながら陽詩美は立ちあがった。
が、もう一度足を滑らせ、今度は俺の方に倒れてきた。
「あ、あぶない!」
おれは荷物を放り投げ陽詩美を支えた。
思ったよりも陽詩美の体は軽かった。
「あ・・・・・・唯人・・・・・・」
陽詩美の顔は真っ赤だった。
それは恥ずかしいのか、雪で冷えたのかはわからなかった。
「まったく、ドジだな」
何気なくその言葉をつぶやいておれは後悔した。
「ドジって行ったぁ・・・・・・」
「お、おい・・・・・・」
またこのパターンか。
「いいもんいいもん・・・・・・どうせドジだもん・・・・・・」
「おい、こら」
「芋虫いぢめてやる・・・・・・えい、えい」
「こんな雪山に芋虫なんているか!」
「むい〜」
「むい〜じゃない」
「頭撫でて撫でて〜♪」
「ちぉ〜〜っぷ!」
バシッ!
「しくしく・・・・・・痛い」
「自業自得だ。 ちょっぷされるのが嫌だったら芋虫いぢめるのやめろって」
「やめるから頭撫でて」
「まったく、しょうがないな」
おれは陽詩美の頭をかるく撫でてやった。
「えへへえ」
「むい〜」
春華ちゃんは頭を撫でられている陽詩美をみて敵意を表していた。
しかたなくおれは春華ちゃんの頭もかるく撫でてやった。
「えへへ、お兄ちゃんありがとう」
この笑顔見ると陽詩美と春華がそっくりに思える。
二人は仲良く旅館の中に入っていった。
後はスゥだけだ。
後ろを振り返るとスゥはバス停の前で立ち止まっていた。
「スゥ、なにをしているんだ?」
「ご主人様、スゥ歩けないです」
故障か?
そう思いスゥに駆け寄ってみると、
「ご主人様危険です。 ここは足元が安定しまいません」
「スゥ、雪は滑るものなんだ。 気にせずゆっくり歩いてみな」
「はい・・・・・・」
スゥは恐る恐る足を出した。
雪場をしっかり捉えて、1歩、2歩、おっかなびっくり歩くロボットもめずらしい。
「どうだスゥ?」
「なんとか歩けます」
「ゆっくりでいいからな」
「はい」
おれとスゥはゆっくり歩きながら旅館までたどり着いた。
旅館の名前は「豪雪山旅館」。
その昔、雪女がいたと言われている山の名前から取ったという。
旅館の入り口には「美術部御一行様」と書かれていた。
なぜか学校の名前が書かれていないのは謎のままである。
「ようこそいらっしゃいませ。 外は寒かったでしょう」
そう言いながら旅館の女将がでてきた。
女将といってもその年齢は若い。
だいたいおれの3、4つ歳上のお姉さんといった感じだ。
「あ、お世話になります」
おれは咄嗟に答えた。
「お客様はあなた様方1組だけですので、施設はご自由にお使いください。 あと何かありましたら一階のフロントまでお越しくださいませ」
そう言って、女将はルームキーを差し出した。
「わかりました」
ルームキーを受け取り、女将に案内されるままおれ達は部屋に向かった。
風情のある木の香りに包まれた旅館は2階建て構造で、1階には浴場と食堂と売店にフロント、2階が全て客間となっている。
案内された部屋は客間の中では一番広い部屋、2階の1番右端だった。
中は6人が寝泊りするには十分な広さで、全面畳張りとなっていた。
「わ〜、これなら枕投げやれるね」
蘭が部屋を見渡しながら言った。
「こら、蘭。 ここは合宿所と違うんだぞ」
「だって〜」
永源寺先輩に静止され、蘭は少し残念そうな顔をした。
「1階に売店あったからみんなで見に行こうよ」
陽詩美はじっとしているのが嫌なのか、みんなに声をかけた。
「そうだな、この時間じゃスキーを始めるのは中途半端だろう」
永源寺先輩は腕時計を見ながら言った。
時刻はちょうど4時。
ゲレンデが夕日で紅く染まり始めた時間だ。
「それじゃ見に行くか」
「スゥはここでお留守番しています」
「頼むよ」
おれはスゥに断わって、みんなと部屋から出て行った。
「いろんなもの売ってるね」
陽詩美はクッキーの箱を持ち上げながら言った。
「まぁ、観光地だからな。 お土産は多いにこしたことはない」
永源寺先輩はウサギのキーホルダーを選んでいる。
すでにキーホルダーだけで3つはストックしていた。
「あはは先輩、こんなのありますよ」
蘭はおれにビニール袋に包まれたものを見せた。
「なんだこれ?」
それには雪女セットと大きく書かれている。
裏を見るとサイズまで載っていた。
「どうやら雪女になりきる衣装みたいですね」
「そうだな」
「えへへ、買っちゃおっと」
蘭は雪女セットを抱えてレジに直行した。
何に使うのかまったく想像もつかない。
ただよからぬ事を考えているに違いないと感じた。
「唯人はなにか買わないの?」
「こういうのは最後の日に買うもんなんだ。 今からだと荷物がかさばっちゃうだろ?」
「それもそうだね」
陽詩美はクッキーの箱を元の場所に戻しに行った。
春華はただブラブラと見て回っている。
自分から何かを買おうとはしないようだ。
「スゥちゃんも待ってるしそろそろ戻ろうよ」
陽詩美が永源寺先輩に声をかけたが、先輩は自分の世界に入ったまま反応がなかった。
「あの、永源寺先輩」
「ウサちゃん♪ ウサちゃん♪」
頭の中でウサギに囲まれているのだろう。
おれ達は先輩を置いて戻ることにした。
「くぅ〜、いい味でてる〜!」
永源寺先輩は鍋を食べながらまた自分の世界へトリップしていた。
夕飯にみんなで鍋を囲んでいるさなか、スゥは一人寂しそうに座っている。
「スゥごめんな」
「ご主人様はなにも悪くないです。 看護ロボットとして当然のことですから気にしないでください」
「そう言われてもな・・・・・・」
みんなで食べている中、一人だけぽつんとしているのを気にしない事なんておれにはできやしない。
「ご主人様、ご飯食べてください。 体調が悪くなります」
スゥの思わぬ言葉の攻撃におれは食べるしかなかった。
ご飯を一口食べる。
うまい。
そんなおれをスゥは嬉しそうに眺めていた。
スゥの笑顔を見ると合宿に連れてきてよかったと思う。
「はぁ〜もうお腹いっぱい」
蘭は満足そうにお腹を叩いた。
「私もお腹いっぱい」
陽詩美は幸せそうな顔をしていた。
「そんなお腹いっぱい食べたらお姉ちゃん太っちゃうよ」
「いいじゃない。 おいしいもの食べて太るなら私は本望だもん!」
「お兄ちゃんに嫌われちゃうよ」
春華は笑いながら言った。
陽詩美の顔がみるみるうちに曇っていく。
「唯人は太った女の子・・・・・・嫌い?」
陽詩美の声は今にも泣き出しそうだった。
「そんなことないよ?」
「・・・・・・ほんと?」
陽詩美の声が少しだけ明るくなった。
「ああ、ほんとだって」
「えへへえ」
陽詩美は満面の笑みを浮かべた。
さてと風呂にでも入ってくるか。
ご飯を食べ終えて1時間後、やることも無いのでおれは部屋から出て行った。
1階に下りて風呂の前に行くと、おれは固まった。
そこには男なら誰でもあこがれる文字、「混浴」と書かれていたからだ。
ど、どうする・・・・・・。
1、 湯船に入りながら誰かが来るまで待つ。
2、 混浴だってみんなに知らせに行く。
男としておれは当然1を選んだ。
誰かが来るかもしれない期待を抱いて。
いそいそと着替えて準備万端。
俺は湯船の奥の方まで移動して待つことにした。
湯気が多く出ているために、誰かが入っていても簡単には見つからない。
我ながら完璧な考えだった。
待つこと数十分、浴室のドアが開けられ誰かが入ってきたようだ。
「うわ〜広い。 これなら泳げるかも」
その声は蘭だった。
思わずおれの鼓動が高鳴る。
「蘭、あまりはしゃぎ過ぎるな。 私たち以外誰もいないからって迷惑をかけるようなことはするな」
永源寺先輩も一緒なのか。
鼓動がさらに速くなる。
「わ〜すごい湯気。 これじゃ誰が入ってるか近づかないとわからないや」
「お姉ちゃん待って〜。 タオル忘れてるよ」
「ありがと春華」
陽詩美に春華ちゃんまで一緒なのか。
鼓動の速さはもはや限界だ。
アソコも元気になってしまう。
湯船に入りおれの方へ誰かが近づいてきた。
も、もう限界だ。
おれはそっと前に移動して、目標を確認することにした。
お目当てのマシュマロが目の前に広がるはず・・・・・・。
しかしおれの予想と反し、マシュマロには邪魔な布が被さっていた。
水着である。
「お、平野も入っていたのか。 ここの温泉は肌にいいらしいぞ」
先輩はおれのことを気にする様子も無く話し始めた。
「あ、唯人もいるんだ。 唯人どこ〜?」
陽詩美にはまだおれは見つかっていない。
おれはなんとかこの場からこっそり抜け出す方法を考えていた。
下半身がタオルだけだってバレると思うと背筋がぞっとする。
先輩から少しずつ離れ、なんとかここから逃げ出そうと湯船の中を移動する。
そぉっと、そぉっと。
移動している最中、おれの背中に何かがぶつかった。
「ふっふっふ、平野先輩み〜つけた」
おれが振り返ると、顔に冷たいものがかかった。
「じゃーん、水鉄砲! こんなこともあろうかともってきたのだ」
「うわっ、冷てぇ!」
湯船の中で入れられたものではない。
わざわざ水道から入れてきたのだろう。
「あ、お兄ちゃんそっちにいるんだ」
春華ちゃんがこっちに気づいて寄ってくる。
かなりピンチな状態だ。
おれは一目散に湯船から飛び出し逃げ出そうと試みた。
「唯人どこにいるの〜?」
おれを探している陽詩美にぶつかりおれはその場に倒れてしまった。
「キャッ!?」
陽詩美が倒れるのと同時に、おれの前を隠していたタオルが持っていかれた。
「な、なにこれ・・・・・・タオル?」
や、やばい・・・・・・。
陽詩美の声の方向をみんなに見られたとき、おれの前は晒されたままだった。
「キ、キャー!!」
おれは石鹸やら桶やらをみんなに投げられ、浴室から追い出されてしまった。
後で何を言われるのかと思うと、とたんに体が冷えた感じがした。
部屋で先輩にたっぷり怒られた後、みんなで布団を引き寝る準備をしていた。
「枕はなんのためにある!」
突如蘭が叫んだ。
「もちろん投げるためだ!」
おれはノリで叫んだ。
「却下!」
「もう遅いです!」
永源寺先輩が却下と言ったにもかかわらず、蘭は枕を投げた。
その起動上にあるのは陽詩美の顔だった。
陽詩美は枕をよけることなくぼーっとしている。
ボスッ!
見事に陽詩美の顔にヒットした。
「何をするかー!」
陽詩美が壊れた。
陽詩美は自分の枕と今投げてきた枕を装備した。
二刀流である。
「現代の宮元武蔵と呼ばれた私に勝てると思うなー!」
陽詩美の投げた枕は蘭の方向に一直線に飛んでいく。
「なんの!」
蘭は間単に枕をよけた。
しかし、
ボスッ!
避けた方向にもう一個の枕が飛んできて蘭の顔面を捉えた。
「これぞ枕投げ奥義、一人時間差攻撃だ!」
「む、無念!」
蘭はその場に力なく崩れ落ちる。
勝利の余韻に浸っている陽詩美にまたも枕が飛んできた。
ボスッ!
「これぞ死んだ振り投法。 宮元武蔵やぶれたり!」
蘭はいつの間にか復活していた。
枕投げでは瀕死のダメージを与えられないから当然といったら当然なのだが。
「やったなー! えい! えい!」
「そっちこそー!」
蘭と陽詩美の枕投げバトルが始まった。
拳を握り締め今にも怒り出しそうな永源寺先輩の顔にも枕が突き刺さる。
当然おれにも春華ちゃんにもスゥにも突き刺さった。
もはや乱戦状態となり、おれと春華ちゃんも加わって枕投げ大会が始まった。
投げている中、永源寺先輩にも枕が飛んでいく。
2回目、3回目・・・・・・。
「キェー!」
3回目の枕が当たった時、永源寺先輩も壊れた。
「枕ダーンク!」
枕投げを繰り広げていた4人の頭に必殺の枕ダンクが決まり、永源寺先輩の一人勝ちということで枕投げ体会は幕を閉じた。
皆が寝静まった午前2時、永源寺先輩こと、永源寺実紀は目を覚ました。
トイレに行きたい。
布団から体を起こして廊下の方を見ると暗い雰囲気が広がっている。
怖いなぁ・・・・・・
部屋の中に設置してあればいいもののと強く思った。
そうだ平野君を起こそう。
実紀は唯人の肩を揺すって起こそうと試みた。
起きてよ平野君、起きてよ。
心の中で何度も呟きながら唯人の肩を揺すり続けた。
ダメだ、起きない。
実紀は諦めて一人で行くことにした。
廊下に出ると暖房が効いていて、別に寒くはない。
実紀は内心、少しだけほっとした。
早いとこ用を済ませて戻ろう。
実紀が戻ろうと廊下を歩いていると、自分の部屋の方向から見慣れぬ人影が近づいてきた。
こんな時間に誰だろう?
自分と同じでトイレに来たのだろう。
実紀はそう思った。
そう思いながらその人と横を通り過ぎたとき、実紀は冷たいものを感じた。
なにかしら?
実紀が振り返ると雫が転々と廊下に残っていた。
「雪女・・・・・・?」
その呟いた瞬間実紀の意識が飛んだ。
「怖いよ唯人くーん!」
みきは走りながら自分の部屋に飛び込んだ。
「唯人くん、唯人くん!」
名前を呼びながら唯人の肩を揺すっても唯人は起きなかった。
「怖いから一緒に寝て!」
みきはそう言って唯人の布団にもぐりこんだ。
唯人の匂いはどこか落ち着いた感じがして、みきに眠気が戻ってきた。
これは夢なんだとみきは自分に言い聞かせてそのまま眠ってしまった。
翌日おれ達は当初の予定のスキーをやるためにゲレンデまで足を運んだ。
スゥはやはり旅館に残ると言ってゲレンデにはこなかった。
看護用ロボットじゃスポーツは出来ないとの事だ。
みんな一度はやったことがあるらしいので、まずは初級コースで足慣らしから始めることにした。
「わっ、わっ、しばらくやってないと滑りにくいよ〜」
蘭はボーゲンで危なっかしそうに滑っていった。
「あうぅ止まれない、蘭ちゃんどいてー!」
陽詩美は蘭の後をボーゲンでついて行ったが止まれなく、蘭に衝突して転んでしまった。
「お姉ちゃん大丈夫?」
同じキャリアでも姉と妹ではこんなに差がでるのかと思うほど、春華ちゃんはうまかった。
「なんであんたは簡単に滑れるのよ?」
陽詩美は春華ちゃんに起こされながら文句を言っている。
「運動神経の差だと思うよ」
「妹のくせに生意気よ」
「せっかく起こしてあげたのにもう知らない」
そう言って春華ちゃんは陽詩美を押した。
「わ、わ、わ」
また陽詩美は尻餅をついてしまった。
「誰か起こして〜」
陽詩美はうまく起き上がれないようだ。
永源寺先輩はさすがと言うべきか、スキーの腕はかなり上だった。
「ほら捕まれ」
「先輩、ありがとうございます」
永源寺先輩に捕まって何とか起き上がる陽詩美。
あとはおれがどれだけ滑れるかだ。
まずはゆっくり・・・・・・。
思ったより滑りにくさは感じられない。
これならもう少しスピードが出せると思ったとたん、おれは陽詩美に負けないぐらい派手に転んだ。
結局午前中は足慣らしだけで終わってしまった。
「私、昨日の夜トイレに行ったとき雪女見たんだ・・・・・・」
スキー場の売店でご飯を食べながら永源寺先輩が言った。
「雪女なんているわけないじゃないですか。 きっと迷信ですよ」
蘭はカレーを食べながら言った。
「迷信ならいいんだけど・・・・・・。 でも雪女にあったときから記憶がないんだ。 朝起きたら平野の布団に入っていたことぐらいしか思い出せない」
おれは飲んでいたお茶を吹きだした。
「やだ、唯人ったらきったなーい!」
正面にいた陽詩美が悲鳴をあげながらおれから遠のいた。
「すまん」
「でも雪女がいるんだったらロマンチックですね」
「私はこういうの苦手だ」
春華の言うことを真っ向から否定する永源寺先輩。
「雪女か〜。 こういう場合って案外フロントの女将さんとかが雪女ですよね」
陽詩美にしては鋭い意見だと誰もが思った。
「わ、私なにか変な事言ったかな?」
皆の視線に陽詩美は困惑していた。
「いや、まともなこと考えてるんだなと思って、つい・・・・・・」
「唯人、それはどういうことだー!」
陽詩美との追っかけっこが始まった。
スキー靴が重いので両方とも思ったよりもスピードはでない。
陽詩美はまた派手に転んだ。
「い、痛い・・・・・・」
「陽詩美、大丈夫か?」
「今度はドジって言わないんだね」
ゆっくり起き上がりながら陽詩美は言った。
「この靴で転んだ人の方が多いだろうからな。 今回は無し」
「じゃあ頭撫でて撫でて〜♪」
しょうがないな。
おれはかるく撫でてやった。
「えへへえ」
陽詩美はすごく嬉しそうだった。
「あとで女将さんに聞いてみるか」
永源寺先輩はそう言うと席を立った。
「あれ、先輩、どこ行くんですか?」
「お手洗いだ」
昨日のことが怖くて朝からトイレに行ってなかったのか。
永源寺先輩の子供っぽいところに思わず笑いがこみ上げてきた。
午後も軽く滑った後、早めに旅館に戻ることとなった。
普段の運動不足のせいで、体が思うように動いてくれないというのが理由である。
体の節々が痛くなっているということは言うまでもない。
おれ達は旅館に戻ってすぐ風呂に入ることにした。
「唯人、一緒に入らないの?」
陽詩美が風呂に行く前におれを誘った。
「残念ながら水着持ってきてないんだ」
「そっか、本当に残念だね。 それじゃ私たち行ってくるから」
そう言うと陽詩美は部屋から出て行った。
部屋に残されたのは俺とスゥ。
おれは何もすることなく、ただボ〜っとしていた。
「ご主人様、退屈ですか?」
「すっごく退屈」
スゥはそう言ったきりまた黙ってしまった。
何を言いたかったのだろうかよくわからない。
「耳掻き・・・・・・しますか?」
「え、あ、ああ・・・・・・」
おれのところにやってきて正座で座った。
「どうぞ」
スゥの膝枕は意外にやわらかかった。
心地よい香りがするのはおれの気のせいだろうか?
顔も自然と赤くなってしまう。
「気持ちいいですか?」
「ああ、気持ちいいよ」
スゥのやわらかい手つきで耳をいじられるとすごく気持ちいい。
このまま寝ちゃおうかな。
「あの、ご主人様、反対を向いてください」
おれは無言で反対を向いた。
スゥの股の正面ににおれの顔が位置している。
「あ、あのご主人様・・・・・・」
スゥは困った顔をしている。
やはり恥ずかしいのだろう。
おれは体の位置を反対に動かして、またスゥの膝枕を楽しむことにした。
無言のままスゥは耳掻きを続ける。
時計の針の音だけが部屋の中に響いている。
「ご主人様、終わりました」
「ああ」
おれはこのまま動かず膝枕を続けていた。
「あ、あの・・・・・・」
スゥはおずおずとおれに言う。
「なんだい?」
「いえ、いいです」
スゥが何を言いたかったのかわかる。
でもスゥはおれがどうしていたいのかという事もわかってくれた。
おれの頭に暖かいものがふれた。
スゥの手だった。
おれの頭をやさしく、何回も撫でている。
悪い気はしなかった。
陽詩美も撫でられているときはこんなことを感じているのだろう。
そんな事を考えながらおれはいつの間にか眠ってしまった。
夕飯の時間、おれ達は女将さんを呼んでそれとなく雪女のことを聞いてみた。
しかし、女将さんは笑って首を振り続けるだけ。
結局雪女については何もわからなかった。
こうなったらおれ達で調べるしかない!
「先輩、雪女のこと調べますけどいいですね?」
「平野、やめないか?」
先輩はやはり怖いらしく、最後まで反対していた。
しかし蘭や陽詩美に促され、結局しぶしぶ了解したのである。
「よ〜し、やるぞ〜」
蘭は水鉄砲を装備してやる気満々だ。
「ちょっと蘭ちゃん、雪女に水鉄砲って効くの?」
「ふっふっふ、この水鉄砲はただの水鉄砲ではないのですよ」
蘭は得意げに話しだした。
「何を隠そうこの水鉄砲の中身はお湯なのです!」
「わ〜、すごいね〜」
陽詩美はパチパチと手を叩いている。
「源に蘭、今はお湯でも雪女が出てくるときに冷めてたら意味無いぞ」
蘭と陽詩美は先輩の突っ込みで固まってしまった。
「それよりもこれ使いましょう」
春華は蘭の荷物を置いてあるところから何かを取りだした。
それは雪女セットだった。
「水鉄砲よりもこっちのほうが効果あると思いますよ」
「なるほど、目には目を、歯には歯を、雪女には雪女ってわけか」
永源寺先輩はなるほどといった感じで、雪女セットを眺めている。
「しかしこれには重大な問題があるぞ」
「問題ですか?」
春華が聞きなおした。
「誰が着るのかってことだ」
「・・・・・・・・・・・・」
部屋全体に沈黙がはしった。
誰も言葉をもらそうとはしない。
つまり誰も着たくないのだ。
「あー平野、頼む」
永源寺先輩が沈黙をやぶり、俺に雪女セットを差し出した。
「なんでおれがやらなきゃいけないんですか。 永源寺先輩こそ最年長なんだしお願いします」
「却下!」
先輩はおれに雪女セットを押し付けた。
おれはどうしようかと思い雪女セットをじっくり眺めた。
ん、これは・・・・・・。
「先輩、このサイズじゃ俺には入らないですよ。 だから先輩着てください」
正直雪女セットのサイズが小さくて助かったと思った。
「サイズか・・・・・・これじゃ私も入らないな。 というわけで蘭、頼む」
「え〜、私ですか! 私だって嫌ですよ」
蘭は雪女セットを受け取ろうとはしなかった。
「お前のサイズで買ったんだろう。 ここは蘭、お前しかいないんだ」
「そんな〜。 でもこのサイズなら陽詩美先輩でも入りますよ。 陽詩美先輩着てください」
蘭は陽詩美の方向を見たが、そこに陽詩美はいなかった。
陽詩美は部屋の隅で布団を頭からかぶっていた。
「陽詩美先輩、そんなところに逃げたってダメですよ」
「私絶対やだ。 着るんなら春華に着せて」
陽詩美は完全に防御モードだった。
「私だってヤダもん」
春華も部屋の隅を陣取って防御に徹していた。
「じゃあスゥちゃん着て〜」
蘭は涙目で訴えた。
「スゥは、着てもいいです」
「本当にいいのか、スゥ」
「はい、ご主人様」
スゥは表情一つ変えずに言った。
「ありがとうぅ、スゥちゃん」
蘭はスゥに抱きついた。
「それじゃ早速着てみて」
「はい」
蘭がスゥに雪女セットを着せること数分、スゥの雪女姿は思ったよりも似合っていた。
むしろ怖いといえるほど雪女に見えた。
「ご主人様どうですか?」
「あ、ああ・・・・・・すごく似合ってるよ」
思わず苦笑いをしてしまった。
無表情さにこの格好とくればまさに雪女そのものだった。
「ほんとだ雪女みたい」
陽詩美がそう言うと、永源寺先輩は肩をビクッと震わせた。
「スゥ永源寺先輩にも見てもらったら?」
「はい」
スゥが永源寺先輩の方へ近づいていく。
「スゥ、頼むから来ないでくれ」
「はい」
「先輩、スゥちゃんは雪女じゃないですよ。 怖がらなくてもいいじゃないですか」
蘭は笑いながら言った。
「しかし蘭、あまりに雪女そっくりだぞ」
永源寺先輩はおっかなびっくりスゥの方を見た。
「う〜ら〜め〜し〜や〜」
スゥの後ろに隠れていた陽詩が言った。
「ギャー!」
永源寺先輩はそのまま倒れてしまった。
「よ〜し、効果も抜群だとわかったところで雪女がくるまで戦いの準備だ〜!」
倒れている永源寺先輩をよそに蘭のやる気は十分すぎるほどであった。
深夜2時、おれ達は部屋の中で息を潜めていた。
先輩が言っていた時間は昨日の今頃だという。
スゥもおれ達も準備万端で構えていた。
「なかなか来ませんね〜」
蘭は飽きてしまったのか部屋の隅で一人、トランプで遊び始めてしまった。
「私ももう眠い・・・・・・」
陽詩美はおおきなあくびをしながら眠い目をこすっている。
春華ちゃんはすでに眠っていた。
「平野、もう寝ないか? 出なかったら出なかったらでいいじゃないか」
永源寺先輩はまだ怖がったままだった。
「そうですけど、せっかくここまで起きていたんだしもう少しがんばってみましょうよ」
「うう、ヤダなぁ・・・・・・」
永源寺先輩も布団を頭からかぶってしまった。
おれもそろそろ寝てしまおうと思ったとき、奇妙な音に気がついた。
その音は足跡のようだ。
少しずつこの部屋に近づいてくる。
「おい、来たぞ。 みんな起きろ」
おれの声に反応し、みんなおれのところによってきた。
スゥも準備OK。
蘭も水鉄砲をかまえている。
足跡は部屋の前で止まった。
全員が息を呑む。
おれは勢いよくドアを開けた。
「雪女め、かくご〜!」
蘭はドアを開けたのと同時に水鉄砲を発射させた。
「キャァ!?」
その声は若い女性のものだった。
「あれ?」
よく見るとそれは雪女の格好をした女将さんだった。
「おい、蘭。 これ女将さんだぞ」
「えっ? あ、本当だ」
蘭は水鉄砲を構えるのをやめた。
「ひどいな・・・・・・ちょっと驚かせてあげようと思ったのに・・・・・・」
女将は水をぬぐいながら部屋に入ってきた。
「なんだ、私が昨日見たのは女将だったのか」
永源寺先輩は安堵のため息をついた。
「ちょっとしたサービスのつもりだったんだけどね。 まさか水鉄砲をかけられるなんて初めてよ」
女将さんは笑いながら言った。
「でも、どうして今日聞いたときはとぼけたんですか?」
「それはね、今日のために雪女がいないって思ってたほうが怖いかなって思ったからよ」
そんなくだらない理由だったのか・・・・・・。
思わず肩も落ちる。
「こっちの雪女さんの方が怖いけどね。 雪女セット買ったのわかってなかったら私が逃げ出しちゃうところよ」
女将さんはスゥを見て、笑いながら言った。
「でも雪女ってもう一人いるんですか?」
春華はドアの方を指差して言った。
「私一人のはずだけど・・・・・・」
ドアの方を見ると、人影がうっすら見えた。
「ま、まさか本物?」
女将さんの表情も強張っている。
「キェー!!」
永源寺先輩が恐怖のあまり奇声を発し、そのまま気絶してしまった。
「せ、先輩、しっかりしてください!」
俺が肩を揺すっても先輩は起きなかった。
どうすればいいんだ!?
俺の目にスゥの姿が入った。
「私、行きます」
「おい、スゥ! 危険だ!」
スゥは俺の制止も聞かずに廊下に飛び出していった。
「ギャアー!!!!!!!」
俺の知らない第三者の声が廊下に響き渡った。
「人間か・・・・・・?」
おれはおそるおそる廊下を覗き込んだ。
一人の男が泡を吹いて倒れていた。
「なんだこいつ?」
雪女と思った人影はなんてことはない。ただのコートを着た男だった。
「この人・・・・・・私の旦那です」
女将がその男を見て言った。
「女将さん結婚してたんですか」
「一応、この人に引かれてここの女将になったんですから」
女将さんは頬を赤らめて言った。
まったく人騒がせな・・・・・・。
倒れている永源寺先輩を除いたおれ達はみんな思った。
「しっかし、スゥの雪女姿はすごかったな」
帰りの電車の中、永源寺先輩が口を開いた。
「先輩の怖がる姿もなかなかすごかったですよ」
「蘭、それを言うな」
永源寺先輩は恥ずかしいの隠すため、窓の外に目を向けてしまった。
「でも楽しかったな〜」
陽詩美は嬉しそうな笑みを浮かべて思い返していた。
「お姉ちゃんはスキー場で雪だるまになってたもんね」
「それを言うなぁ〜」
陽詩美と春華はギャーギャー言い合っている。
「スゥは楽しかったか?」
「はい。 みんなといるのって楽しいですね」
スゥも満足そうだった。
正直おれも楽しかった。
合宿がまだ続いているかのような錯覚も感じた。
しかし何かを忘れているような気も同時にした。
「平野、合宿にきたのはいいが作品を何も作らなくてよかったのか?」
今わかった。
この合宿では何も描いていないってことに。
「あ・・・・・・」
「まったく、まだまだ部長は務まらんな」
「先輩は知ってたんですね」
「もちろんだ。 だが私は引退した身だからな。 あえて言わなかったんだ」
先輩の言葉に寒気がはしる。
それは陽詩美も蘭も同じだった。
「ま、とにかくがんばれよ」
先輩のその言葉は何の足しにもならなく、おれ達の冬休みは終わりを告げることとなった。
今日は徹夜になるだろう・・・・・・。
終わり
後書:
私が初めて書いたSSってやつです。
しかも投稿SSというやつでした。
作品が載ったのは嬉しかった記憶があります。
ゲーム名はパンドラの夢。
PC版からDC版に移植されてもいるので、やってみてください。意外に笑えるし、泣けます。
陽詩美にすっごく萌え!!
後書2:
もうSS書かないと思う。
世界感を壊さないように書くのってむちゃくちゃ難しいですし、私は自分の妄想、いや創造を文章にしている方が好きなようです。
でもまぁ、書いてて楽しかったなぁと振り返ってみる
ちなみに書いたのは2002年2月28日
後書3:
長い。生涯こんなに長く文章を書いたのは初めてだろうってぐらいに長く感じた。
てか、本当に俺が書いたのか?
時がたつにつれて疑問を覚えるトムだった(2004年1月12日)